琴棋書画図大小鐔 (大)蓮斎壽一(花押) (小)蓮齋壽一作 -Signed Rensai Juichi- (大)縦80.2ミリ 横74.1ミリ 切羽台厚5.15ミリ 重量187グラム (小)縦74.1ミリ 横68.0ミリ 切羽台厚4.65ミリ 重量145.5グラム 江戸後期 The late Edo period 附属 特別保存刀装具鑑定書、桐箱 蓮斎壽一は詳しい伝歴に未詳の点を残すものの、本作に示された四分一地の巧みな扱い、肉合彫と高彫を自在に使い分ける立体表現、金、銀、赤銅、素銅を画面の要所へ配する洗練された色彩感覚から、江戸後期の町彫金工として卓越した技量を備えた作者であったことがうかがわれます。大鐔には「蓮斎壽一」と花押、小鐔には「蓮齋壽一作」と銘を刻み、大小二枚を一つの構想のもとに完成させた本作は、作者の構成力と緻密な鏨技を余すところなく伝える代表作というべき在銘の揃物です。 琴棋書画は、琴を奏で、棋を打ち、書を読み、画を楽しむという文人の四つの教養を表し、俗世の名利を離れて学問と芸術に親しむ理想の境地を象徴する格調高い画題です。日本でも文雅と知性の象徴として絵画や工芸へ繰り返し取り上げられ、人物を直接描かず、琴、棋、書、画を想起させる器物だけでその世界を語る留守模様には、見る者が一つ一つの道具を読み解きながら情景を心に描く、奥ゆかしく知的な趣があります。 本品は大小とも量感のある竪丸形の四分一石目地を舞台とし、琴棋書画にちなむ書冊、文房具、巻物、調度、草花などを表裏へ振り分け、肉合彫、平象嵌、高彫、据紋、色絵を駆使して、紙、漆、金属、植物それぞれの質感まで鮮やかに描き分けています。大鐔では広い余白の中へ器物をゆったりと配して堂々たる格調を生み、小鐔では一つ一つの意匠を緊密に結び付けて凝縮された華やぎを表しながら、金銀の光、赤銅の黒、素銅の温かな色味を共通させることで、二枚を並べた際に一幅の絵を見るような見事な統一感を作り上げています。 大小それぞれの片櫃は赤銅で端正に埋められ、その赤銅地にも金象嵌で霞を描いており、単に櫃孔を塞ぐのではなく、深い黒の中へ金霞をたなびかせて作品全体の景色へ取り込むという、並の金工では成し得ない周到な美意識が示されています。四分一の穏やかな灰色、赤銅の深い黒、霞の金色が一つの画面で響き合い、片櫃そのものが独立した小景となることで、表裏の意匠にさらなる奥行きと静かな華やかさを添えています。 正面では余白を生かした絵画的な構成、斜光では高彫と据紋の量感、手元では微細な鏨線と色金の取り合わせが次々に現れ、大小、表裏を巡るほど琴棋書画の世界が豊かに広がります。総重量332.5グラムに及ぶ四分一地の贅沢な量感、大小双方の在銘、優れた色金表現、片櫃の赤銅埋金にまで意匠を行き届かせた完成度に加え、特別保存刀装具として認められた確かな格を備えており、江戸後期金工の文雅と技巧を代表する、まさに名品中の名品と呼ぶにふさわしい大小揃いです。




















東龍斎派
江戸(c.1830)
在銘
特別保存
町彫 · Edo
現在15点販売中
東龍斎派は、幕末の江戸に興った金工の一門である。開祖は田中清寿(東龍斎)であり、武蔵国の鐔工田中房次郎の子として生まれた。はじめ後藤宗次郎政則に学んだものの、装剣金工の広い領域はおおむね独学によって究め、ついに洒脱で個性ゆたかな独自の作風を完成させた。その手法は東龍斎風と称され、一派の基をなすにいたる。清寿は幕末金工の三名工の一に数えられ、京の後藤一乗と名声を競い、一乗と同じく法眼の位を授けられた。その工房には多くの門人が集い、なかでも養子の清重が二代を継ぎ、また柴原十郎(俊美)は、後年に至るまで「清寿門下随一の金工」[[c:1]]と評された。柳川派の名工河野春明もまた江戸において清寿と時を同じくし、幕末金工の一潮流をなして、この一門の周辺に少なからぬ影響を及ぼしている。 作風は、あらゆる彫法を自在に駆使する技倆と、江戸ならではの粋にして機知に富む趣向とに支えられる。清寿から清重・俊美にいたるまで、赤銅・四分一・鉄・銀などの地金の上に、色絵を伴う高彫をはじめ、鋤出彫、据紋象嵌、平象嵌、布目象嵌などを巧みに用いた。とりわけ清寿は、金に加えて素銅・四分一・真鍮・色金を交える鮮麗な色調を確立し、「色金の魔術師」とも称された。清重はこの語彙を受け継ぎつつ、肉置のすぐれた立体的な彫成を得意とし、その肉彫は丸彫に迫るとされる。俊美は磨いた四分一地を主とし、据紋象嵌・置金・消鍍金などを一作のうちに綜合して、深みのある色調を表した。なお小柄裏の猫掻鑢は、この一門の後期作を結ぶ特色として知られる。画題もまた広く、人物・花鳥・竹取物語や徒然草に取材した文学的主題、さらには擬人化された蛙などの諧謔をまじえ、江戸風の洒落た味わいをよく伝えている。 日本美術刀剣保存協会の鑑識は、この一門の作を、金象嵌を多用しても格調高く、荘重にして衒いのない品位と完成度を備えたものと評している。清寿円熟の作は技と趣向とがよく協和し、清重の優品は開祖に比肩する域に達するとされ、俊美の作には余白を生かした構図と落ち着いた気韻が認められる。東龍斎派は、後藤・柳川の彫法を摂取しつつ、これを独自の作意へと昇華させ、江戸金工の自立した美意識をもっとも明確に体現した一門といえる。開祖清寿に始まり、清重の継承を経て俊美の明治期の活動へと流派の個性が連綿と保たれたことは、その芸術的気概の確かさを物語っている。 詳しく見る →
保存刀装具のうち、出来・保存状態が一層優れ、銘文や作風に資料的価値の高いものと認められたものです。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
NBTHK公式サイトお求めになられた商品とは異なる商品をお届けしてしまった場合や、表記内容と現物とに大きな隔たりなどがあった場合を除き、基本的に返品はお受けいたしません。返品をご要望の場合は、商品到着後3日以内に御連絡の上ご返送下さい。