材質・技法:真鍮地、高彫、毛彫、貴金属象嵌(金、銅) 意匠・図案 この卓越した鍔は、鍔にある開口部を物語の構成に見事に組み込んでおり、日本の有名な伝承である鍾馗(鍾馗さん)と悪戯な鬼の伝説を描いています。 表: 右側には、鍾馗が迫力のある高彫で表現されています。金と銅の象嵌で強調された、鋭い表情、長く流れる髭、そして伝統的な官人の帽子(角帽子)を身につけた姿で描かれています。彼は敵を探しながら、刀を構えています。左下には、繊細な毛彫で、補助的な開口部(小柄櫃孔)の下で縮こまり、恐れをなして鍾馗を見上げる鬼が描かれています。 裏: 作者のユーモアと独創性が裏面に展開されています。左上には、穏やかに彫られた渦巻く雲が配されています。右下には、逃げ惑う鬼の下半身と足が小柄櫃孔から直接現れており、鬼が鍾馗から逃れるために、物理的に鍔の穴を通り抜けているかのような巧みな視覚的錯覚を生み出しています。 銘・極め 銘:裏面の切羽台(中心の穴の隣)に、深く彫られた花押(図案化された職人の署名・印)があります。 芸術的背景:色金の組み合わせ、高彫、そして空間を遊び心たっぷりに活用した機知に富んだ構成は、江戸時代の金工集団である奈良派の特徴です。奈良派は、日本刀の装具に物語的なユーモアと絵画的な写実性を導入したことで知られています。 もしこの鍔にご興味がおありでしたら、現在、同じ意匠と材質の揃いの縁頭もございます。
取扱店 Nihon Collection
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町彫 · Edo
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奈良派は、江戸時代中期に隆盛を見た刀装金工の一流派である。後藤家の格式に拠らず、独立した町彫の伝統として発展し、奈良一門の歴代の手を経てその名跡を伝えた。流派の声価を不動のものとしたのは、奈良利寿・土屋安親・杉浦乗意のいわゆる「奈良三作」である。三作の筆頭たる利寿は寛文七年に生まれ、安親はこれに次ぎ、乗意は元禄十四年の生まれにして三人の中では最も若い。安親は出羽国庄内藩士の子として生まれ、若くして正阿弥珍久に学んだ後、元禄十六年江戸へ出て奈良辰政に師事し、天性の才を開花させた。乗意は信州松本の人で、江戸に出て奈良利治門の寿永に学んだと伝えられる。かくして各地より集う才人を糾合し、奈良派は江戸金工の独立した諸流の中にあって最高峰の一角を占めるに至った。 作風においては、流派の標識として彫技と素材の幅広さが挙げられる。地鉄は赤銅・鉄・真鍮・朧銀・四分一・素銅など多様であり、これに石目地・槌目地・磨地などの地荒らしを施す。彫技は鋤出彫・高彫・毛彫・片切彫を基調とし、金・銀・赤銅・四分一・素銅といった色金を象嵌・色絵として的確に配して画題を生かす。三作はこの共通の語彙のうちに各々独自の境地を拓いた。利寿は人物図を得意とし、縁頭の製作に抜群の技を示し、鋤出高彫を基調として隅々にまで力の漲る重厚な彫口を見せる。安親は構図の取り方、色金の配し方、空間の表現において追随を許さぬ均衡を示し、人物・動物・山水・故事と多岐にわたる題材に詩情と物語性を込めた。乗意は朧銀磨地を地金とし、僅かな高低差を活かして対象の表情を豊かに表出する肉合彫の新技を編み出し、象嵌や色絵をあまり用いず鏨の力量のみで意匠を彫り上げた点に独壇場を示す。 評価と伝承においては、奈良派の諸工が刀装具という限られた画面のうちに装飾の域を超えた真の芸術的表現を達成した点が、その名声の根幹を成す。利寿の作は豪壮の気が自然に溢れる品格を備え、僅かな空間を最大限に活用して躍動感を与える技量に特色がある。安親の作には「安親ならでは」「安親の世界」といった文言が繰り返し用いられ、その独創性と芸術性の高さが讃えられ、晩年には古銭を意匠に取り入れた枯淡の作風も見られる。乗意の児落獅子図小柄は、肉合彫を駆使して千尋の谷に我が子を投げ込む獅子を彫り上げた会心の作として重要刀装具に指定され、落下する児獅子の力強さと崖上に見守る親獅子の表情に臨場感が溢れる。これら三作を頂点とする奈良派は、構図の卓抜、全幅にわたる技量の冴え、そして優品を芸術の高みへと昇華させる表現の深さによって、江戸金工の世界に確固たる地位を築き、後世に多大な影響を与えた名門である。 詳しく見る →
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