地板(額)の面積に対して不釣り合いなほど大きな金紋が、どっかりと据えられています。左右の幅はさほどでもありませんが、天地は小縁にかかるほどの大きさ。これだけだったらまだしも、その立体感が半端なく、これでもかと迫り来る迫力です。もう高彫という域ではなく立体彫と言える代物で、なおかつ金紋ですから重量感もさることながら贅沢な一品。ただ、大柄な金紋に対してキャンパスとなる地板が貧相に見えることが少し残念かと・・・と、ここまでは良いのですが、ちょっとデザイン的に無理をしたかの如きこの小柄が悦乗に極められていることには、かなり抵抗を覚えます。 金紋自体の彫は確かに細かく丁寧で顔の表情もしっかり彫られています。正直上手いです。問題はやはりこの大きさで、後藤家九代・程乗の次男である悦乗がここまでアンバランスな作を作るのか?という点。仮にも前田家のお抱え工であり、加賀後藤の立役者、そして実質的な創始者と言われている悦乗がです。ん〜腑に落ちません。贅沢な金紋で画題と作風が似ているからでしょうか。確かに親である程乗極めの作に本小柄と瓜二つの作があるようです。様々な点で類似し、違っているのは服装の模様、帽子の形状、右端の唐子が持っている棒の形状ぐらい。他の部分はほぼ同じ図柄・形状をしています。しかし、程乗の布袋唐子の紋は本作のようにアンバランスではなく地板に見合うサイズで、品格も感じられます。それに比して・・・(まあ、どちらも後藤家の作ではない可能性もありますが)・・・逃道の仮説として、こういう見方はどうでしょうか。この本体は後補の作で、後世の金工が紋だけ移植した・・・本体の裏面に施された金の焼付が小縁まで回り込まず中途半端な気がするのです。悦乗の手になる作であれば、金紋とのバランスそして風合いを考慮し、小縁まで回り込ませても不思議ではありません。さらにこの金紋は上部からのリベット留め。留めるために空けられた穴が3カ所あり、どうみても後補の所作にしか思えません。悦乗なら新規製作時にこんな造込をしない、そう考えるのが自然な気がします。であれば元来の作は一回り大きい小柄だったことになりますが、ギリギリ許容範囲としたいところです。 ともあれ本作の鑑定書の極は悦乗。無理にそれを受け入れるとすれば、このアンバランスなレイアウトは布袋唐子の由来を皮肉って悦乗があえてこのレイアウトにしたとも考えられますね。気ままで怠慢でいい加減な布袋様を真似て、その風刺をこの大きすぎる金紋で表現したのかもしれません。



脇後藤派
江戸
無銘
保存 (NBTHK)
家彫 · Kyoto
現在74点販売中
脇後藤 脇後藤とは、刀装具製作において歴代にわたり権威を保った後藤宗家に対し、その傍系・分家にあたる諸家の総称である。後藤家は室町時代以来、足利将軍家・徳川幕府に仕え、その彫物は「家彫」と称されて市井の需要に応じた「町彫」と区別され、刀装金工の最高峰と仰がれた。脇後藤はこの宗家の血脈と技法を分かち、京都および江戸の中央のみならず諸国へとその伝統を広めた一群である。室町末期に活躍したと伝わる光乗をはじめ、程乗の次男にして理兵衛家を興した悦乗、権兵衛家の順乗、勘兵衛家の東乗・光文、半左衛門家の光正、次左衛門家の光久など、多くの名工がこの系譜に名を連ねている。とりわけ悦乗光邦は寛永十九年に京都に生まれ、加賀前田家より百五十石を賜り、勘兵衛家の演乗と隔年で加州金沢に住して門人を育成し、加賀後藤の隆盛に大きく寄与した。 作風は専ら後藤の御家流を基調とし、赤銅魚子地を高彫あるいは鋤出高彫とし、これに金色絵を施すのを本領とする。魚子地は細かく整然として深く澄み、肉置きも優れる。光乗は桐紋・鳳凰・百足などの意匠を好み、その魚子地と高彫の肉取りに後藤上三代の遺風を伝える。悦乗は龍や獅子といった後藤の掟物のみならず、滑らかな赤銅の波文地に尾鰭を跳ね上げ勢いよく海上を飛ぶ鯱を、隅々まで細緻な鏨の活きた金紋であらわすなど、一風変わった趣向の作をも遺し、小柄笄の仕立・肉置は父程乗に全く同じく、金の色あいよく彫技も傑出する。幕末に至っては、光文の七夕図に見るごとく、赤銅魚子地の高彫金色絵を蒔絵・螺鈿の鞘と取り合わせ、加賀工芸の極致と称される優美な刀装をも生み出している。 評価においては、脇後藤の作はいずれも父祖の御家流を忠実に継ぎつつ、各家それぞれに独自の意匠と卓越した彫技を加えた点が高く評価される。順乗の双龍図鐔が「後藤傍系作品中の傑出作」[[c:1]]と称されるごとく、傍系にありながら宗家に劣らぬ技量を示す作が少なくない。在銘品が比較的少ないため、その遺品はいずれも資料的価値が高く、後藤家研究の好資料として珍重される。理兵衛家の加州移住によって伝統は京・江戸の外へも広がり、加賀後藤として一地方の金工を興隆させた。かくして脇後藤は、後藤宗家の家彫の伝統を時代の好尚に応じて展開させながらその品格を保ち続けた一流として、日本刀装金工史上に重要な位置を占めている。 詳しく見る →
銘が正しい、または無銘でも年代・流派を指摘でき、美術工芸的価値が認められる、保存に値する真正の刀装具と鑑定されたものです。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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