島津家お抱え金工石黒政美の嫡子で、後にその名跡を継いだ是美は、石黒家の最大の特徴である正確で精巧な高彫表現を得意とし、殊に四季の風景に取材した百花繚乱の様子を濃密な色金で表現した名品の数々を遺している。 この三所物は、大胆な意匠からなる匂立つような満開の枝牡丹が鮮やか。漆黒の赤銅魚子地は粒が細かに揃っており、ここに鋭い鏨で切り付けたように主題を彫り出して金色絵を施した描法。肉厚感のある花弁には流れるような筋が施されて動きがあり、粒立つ花蕊を包み込む様子はいかにも妖艶。 表裏総体に傷みがなく、哺金の色調も暖か味がある。



是美
江戸〜明治(ca. 1832-1887)
武蔵
在銘
特別保存 (NBTHK)
町彫 · 武蔵
石黒是美は、横谷門石黒派を代表する政美の子で、通称を寛次郎という。同派の是常に学んで修行し、師である是常と父である政美の工銘を一字ずつもらって是美と名乗った。父と共に石黒一門を繁栄させた実力の持主であり、天保の年紀作が見られる。明治二十年までの生存が確認されている。寿鶴子、寛斎等の別号がある。
石黒派が得意とした花鳥図を高彫色絵であらわす作風を特徴とする。赤銅魚子地を基本とし、高彫、金色絵、金据文、象嵌、哺金など、多様な技法を駆使する。特に、緋色銅、銀、素銅などを巧みに用いた色絵の色彩感覚に秀でている点が評価される。作例として、柏・松梅の樹上から雉子・鶴雀を狙い、捕らえた処を描写した猛禽図や、竹に雀図などが見られる。金無垢地を用いた目貫の作例も見られる。
是美の作は、「細緻な鏨法」と「豪華な色絵」が特徴であり、石黒派の本領を示すものとして評価されている。「高彫色絵の彫法」と「高肉に彫上げた金紋」[[c:1]]とを見事に融合させ、豪華で量感溢れる作品に仕上げる手腕は特筆される。石黒派は元来花鳥を得意とし、就中、錦鶏鳥はそのお家芸とも称すべきもので、その華麗さは当時流行の錦絵にも通じるものがある。華麗であってしかも卑しくないところに、是美の技術の高さが認められる。是美の作は、石黒派の特色を遺憾なく発揮した会心の作と評される。
是美の位置づけを、日本刀全体および伝法・時代・時期ごとに示します。各区分(随一・屈指・有数・著名)は、NBTHK および文化庁による指定に加え、三作や名物帳などの歴史的栄誉を加味したものです。
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町彫 · Edo
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石黒派は、江戸時代後期に江戸で隆盛した町彫の一流派である。開祖の石黒政常は宝暦十年に生まれ、柳川直政の門人加藤直常に学び、のちに直政にも師事して独立した。両師の名から「政」と「常」の一字ずつを取って政常と名乗ったと伝えられる。日本橋の呉服町に住し、雅号を東嶽子(のち東岳子)といい、文政十一年に没した。その門下からは政美、政明をはじめ、是常、政英、政広ら多くの上手が輩出し、子の是常、政美の子で是常に学んだ是美らへと技が受け継がれて、同家は明治まで代々栄えた。横谷・柳川系列に連なりながらも、政常が柳川家の作風を脱し、花鳥図に独自の工夫を凝らして一派の作風を確立した点に、石黒派の起源がある。 石黒派の作風は、その時代の好尚を端的にあらわして成功しており、花鳥を主題とした濃艶な絵画的世界を高彫色絵で展開する点を一門共通の標識とする。多くは赤銅魚子地を高彫とし、金を主に銀、朧銀、素銅、四分一、茶四分一、緋色銅など多彩な色金を駆使した色絵を施す。なかでも緋色銅を効果的に用いるところが、政美をはじめ一門の上手達の見どころである。画題としては鳥を得意とし、鷹などの猛禽は初代政常以来のお家芸であり、孔雀は政美、雉子や錦鶏鳥は政明が得意とした。政常の彫は実直細密で磨きも綺麗に気品があり、空間を巧みに生かした清澄な気韻に満ちる。これを承けて政美は写実的な構図に細心の注意をはらい、裏面に空間を大きくとって流水を配するなど画面に奥行を計り、政常と双璧と称される政明は写生に徹した描写と一段と華やかな色絵を個性とした。是常は老梅の幹や猛禽の姿を力強く表現し、平肉を貶して遠近感を出す工夫を見せ、是美は緋色銅・銀・素銅を巧みに用いた色彩感覚に秀でた。華麗でありながら卑しさに陥らぬところに、一門に共通する技量の高さがある。 石黒派の作品は、町彫の雄として豪華精巧に仕上げた優品として高く評価されている。政常の作は華麗典雅のなかに武士好みの勇猛さを内包し、後藤家の家彫を研究して我物とした作も見られる。政美の作は緻密な彫技と豪華な彩色において本領を発揮した逸品とされ、政明の作は花鳥図を金工技術の限りを尽くして展開し、見る者に驚きを与える魅力をもつ。是常の作は壮厳華麗で堅実な彫法を示し、石黒派を研究する上で貴重な作とされ、是美の作は細緻な鏨法と豪華な色絵を見事に融合させた会心の作と評される。錦鶏鳥に見られる華麗さは当時流行の錦絵にも通じるものがあり、一門が日本人好みの花鳥図を高い品格をもって展開した点に、石黒派の独壇場たる所以がある。かくして石黒派は、横谷・柳川の古典を受け継ぎつつ、これを濃麗な絵画的世界へと昇華させた一流として、江戸金工史上に確固たる位置を占めている。 詳しく見る →
保存刀剣のうち、出来が一層優れ、保存状態も良好と認められたものです。再刃や、室町・江戸期の多くの無銘作は対象外となり、保存刀剣より高い基準が課されます。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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