五条大橋義経弁慶図鐔 藻柄子入道宗典製 -Sōheishi Nyūdō Munenori sei- 縦83.1ミリ 横79.3ミリ 切羽台厚4.8ミリ 重さ126.5グラム 江戸中期 The middle Edo period 附属 桐箱 藻柄子宗典(むねのり)は近江国彦根を代表する江戸中期の金工で、厚みのある鉄地へ人物や風景を濃密に高彫し、透彫と金銀素銅の色絵を組み合わせた華麗な作風で知られており、本作には「藻柄子入道宗典製」の銘がありますが、作者名による評価を加えず、江戸中期の彦根鐔として作品そのものを評価しています。 五条大橋で出会った牛若丸と武蔵坊弁慶の対決を題材とした鐔で、千本の太刀を奪おうと待ち構える弁慶に対し、身軽な牛若丸が橋の欄干を自在に飛び移って翻弄したという名高い場面を、鉄地の高彫と透彫によって表裏にわたり展開しています。 表には薙刀を構える弁慶を右下へ大きく配し、その頭上へ軽やかに身を翻す牛若丸を表しており、二人の視線と身体の向きを対角線上に結ぶことで対決の緊張感を生み出すとともに、橋の欄干、松、岩、渦巻く雲を巧みに透かし合わせ、限られた鐔面の中に奥行きのある夜の五条大橋を描写しています。 裏には橋の欄干と親柱、松や岩、空を覆う雲を配し、表から連続する情景として構成することで、鐔の表裏を一つの画面として楽しめる趣向が凝らされており、透かされた空間が橋上を吹き抜ける風や人物の素早い動きを想起させます。 牛若丸と弁慶の顔や手、武具の要所には銀や素銅の色絵を施し、衣装、甲冑、橋、松、岩、雲には金象嵌を細やかに配することで、黒褐色の鉄地に華やかな彩りと立体感を与えており、さらに耳全体へ細かな文様を施した金覆輪をめぐらせ、密度の高い人物表現を明るい輪郭で引き締めています。 縦83.1ミリの大振りな鐔面に義経と弁慶の物語、橋上の建築表現、自然景を余すところなく盛り込み、彫刻、透彫、色絵、金覆輪を一体としてまとめた、江戸中期の彦根彫り人物鐔らしい華麗さと劇的な構成を楽しめる一枚です。
在銘 · 彦根 · 江戸
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金工
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金工 · 近江
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彦根派は、近江国彦根に興った刀装具の一流派であり、その彫法は世に彦根彫の名をもって知られる。開祖は藻柄子入道宗典で、『装剣奇賞』によれば元来は京都の出身と伝えられ、後に江州彦根に移住して彦根彫の祖となったという。彦根御家中川北氏の抱え工となり、氏を喜多川(喜多河)と改め、初銘を秀典と称した。同名二代があるといい、現存する行年紀作などから初代は承応元年に生まれたことが知られ、その活躍期は江戸時代前期から中期にかけてである。美濃彫の流れを汲むとも伝えられ、作風に後藤風、美濃風が見られるとする見解もある。宗典の門からは野村包教をはじめとする有力な作者が輩出し、包教は宗典門第一の上手と称され、同派の有力な分派として独自の地位を確立した。 作風は、鉄地または赤銅魚子地を用い、鋤出高彫に金・銀・赤銅・素銅などの各種の色金を駆使した象嵌色絵をもって飾るものが多い。たっぷりとした地の表裏画面一杯に主題を肉置き豊かな高彫で表し、各種の色金にかつ金の種類をも複数使用して、壮大な画面に仕立てる点に大きな特色がある。題材は武者、竹林の七賢、花鳥、藻貝尽くし、唐人物、群仙図、十二支など多岐にわたり、また『源氏物語』の「明石」や『小督』の物語に取材した作例も見られる。賑やかに華やかに展開する様はまさに宗典の真骨頂であり、その彫口はおおらかでゆったりとしており、観る者を幽玄の世界に誘うと評される。包教もまた、大胆な構成力と繊細な色がね象嵌をもって画面を広く使い物語を演出し、師の作風を継承しつつ独自の魅力を加えた。 彦根派の作は、その濃密な彫法によって名を馳せ、宗典は代表工として多くの鐔好きを魅了した。ともすれば賑々しい鐔は行き過ぎの感を否めないこともあるが、宗典の手にかかると不思議と行き過ぎ感がないばかりか、品格をも兼ね備えた豪華な優鐔となる。包教の作もまた、師である宗典の傑作に勝るとも劣らない出来と評され、その白眉と見られる一枚も伝えられている。一方、宗典の名はあまりにも有名であったために、後代の彦根彫の作品に宗典の刻銘が多用され、土産物といわれる粗悪な作品にまで刻銘されているのが現実である。それゆえ真作においては、賑々しい作柄に品格を兼ね備えた豪華な優鐔が多く、行年銘が貴重であり、保存状態が良いことも好ましい評価の点とされる。 詳しく見る →
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