肥後甚吾派と極められる、鉄地の一枚。 風にそよぐ松の枝葉と、その下に佇む松茸という秋の情景を、静寂かつ情緒豊かに描き出しています。 造り込みは縦長の丸形(竪丸形)で、地鉄は肥後物特有の密度が高く、よく練られた質感を呈しています。色艶は深く落ち着いた黒茶色の錆際を見せ、肥後趣味らしい、渋みと手持ちの良さを兼ね備えた「わび」の美学が感じられます。 意匠は肉の低い高彫に、要所に象嵌を施して表現されています。松の幹や枝は自然な起伏をもって造形され、樹皮の筋や枝先には金布目象嵌の痕跡が残り、光の反射を繊細に捉えています。松葉の描写はあえて控えめに留めることで、装飾過多を排した静かな構図を保っています。 地の下方には、銀色を帯びた傘と赤みを帯びた色調で対比させた松茸が添えられ、全体の静謐な調和を乱すことなく、季節の風情を添える控えめな見どころとなっています。 本作は大胆な透かしに頼るのではなく、鉄地の肉置きの変化によって奥行きを表現しています。地鉄の緩やかな起伏、柔らかな彫り口、そして余白と文様の絶妙な均衡。この写実的な静けさと、無駄を削ぎ落とした線、最小限に抑えられた象嵌の妙は、甚吾派の作風、ひいては「控えめな優雅さ」を尊ぶ肥後金具の真髄をよく示しています。 寸法:縦 80.7 mm × 横 72.4 mm 厚さ:切羽台 4.5 mm / 耳 3.7 mm 重量:124.7 g





志水派
江戸
肥後
伝
肥後 · 肥後
現在23点販売中
志水派は、林・平田・西垣と並び肥後金工の本流を代表する四家の一つである。初代志水仁兵衛は平田彦三の甥と伝えられ、その指導を受けた。四家の初代はいずれも細川三斎忠興に抱えられ、直接の指導を受けている。寛永九年(一六三二)、加藤家改易ののち三斎の子忠利が熊本五十四万石に封ぜられると、三斎は隠居の身となり肥後国八代城を隠棲の場と定めた。初代甚五はこのとき彦三と共に三斎に従い八代に移住し、以後志水家は細川家の庇護のもと八代の地で代々栄えた。二代目以降、家督を継ぐ者は甚五(甚五)の名を襲名したが、初代・二代には在銘作が皆無であり、無銘ながら鑑定により世代が判別される。 志水派の作風は、肥後金工諸派の中にあって「ひときわ強烈な個性」を発揮するものとして一貫して評される。その技法上の最大の特色は、槌目焼手仕立ての鉄地に大胆な真鍮据紋象嵌を施す手法にある。表には猛禽・鶏・梟・雨龍・蛸・蟹などの画題を大きく力強く配し、一方裏は意図的に空間を広くとり、文様は小さく、彩色や肉置きも穏やかにして表裏のバランスをとる。一見非対称に感ぜられるこの表裏の構図こそが志水派の真骨頂であり、説示は繰り返し「総体的にきわめて均整のとれた趣の深い作品」と評している。表の躍動感と裏の静寂感が渾然一体となり、寂(さび)ないし侘寂の趣を深くする剛毅な作風がそこに成立する。真鍮据紋象嵌は「恐らく平安城象嵌にならったもの」とされるが、「平安城象嵌と異なるところは大胆な図柄にあって、これが今日なお斬新な感じを与える」と説示に明記されている。また鋤出高彫に金銀布目象嵌を施した作や、素銅地の作もあり、素銅でありながら重厚な趣を醸し出せるのは「甚五の技量の高さを伺うに十分」と評されるように、地金を問わず深い造形力を示す。撫角形・障泥形を得意の鐔姿とし、変り櫃孔もまた同派に見る特色である。 志水派は肥後金工の伝統において最も異色かつ芸術的迫力に満ちた一派としての地位を占める。とりわけ初代甚五は卓越した作家として説示に高く讃えられ、松上の梟図や松上の猛禽図はその名と「ほとんど同義」とされるほどに密接に結びつく。説示は初代の最高作について「大智は愚の如し」の語を引き、「大巧は拙なるが如し――拙に見えて拙でないが故に常識を超越した力を発揮した」と述べ、技巧を超えた境地に達した芸術家として位置づけている。武人の魂を猛禽に託して無双の覇気を示す一方、余白を十分に生かした画面からは「物深い閑かな雅趣」が感じとられ、文武両道の達人であった三斎の指導に応えた入念の作と評される。また「魚金甚五」の銘を持つ稀少な在銘作や、銀布目象嵌・毛彫・色金を駆使した後世代の展開は同派の技法的幅の広さを証するものである。「他の金工にはみられない大らかな雰囲気」を醸し出し、「近代的感覚にもうったえる」と繰り返し評される志水派の絵画的造形は、肥後金工の枠を超えて刀装具史に独自の存在感を刻んでいる。
販売店の出品ページで鑑定書を確認できませんでした。日本刀および刀装具は通常、NBTHK(または NTHK)の鑑定を受けます。鑑定書がない場合、極めは販売店の見解にとどまり、第三者による確認は行われていません。ご購入前に販売店へ鑑定書の有無をお問い合わせのうえ、慎重にご判断ください。
14-day return window in original/unused condition; antique items (swords, menuki, tsuba and similar) are expressly excluded from exchange; EU consumers retain a 14-day cancellation right; refunds within 10 business days of approval.
肥後甚吾派と極められる、鉄地の一枚。 風にそよぐ松の枝葉と、その下に佇む松茸という秋の情景を、静寂かつ情緒豊かに描き出しています。 造り込みは縦長の丸形(竪丸形)で、地鉄は肥後物特有の密度が高く、よく練られた質感を呈しています。色艶は深く落ち着いた黒茶色の錆際を見せ、肥後趣味らしい、渋みと手持ちの良さを兼ね備えた「わび」の美学が感じられます。 意匠は肉の低い高彫に、要所に象嵌を施して表現されています。松の幹や枝は自然な起伏をもって造形され、樹皮の筋や枝先には金布目象嵌の痕跡が残り、光の反射を繊細に捉えています。松葉の描写はあえて控えめに留めることで、装飾過多を排した静かな構図を保っています。 地の下方には、銀色を帯びた傘と赤みを帯びた色調で対比させた松茸が添えられ、全体の静謐な調和を乱すことなく、季節の風情を添える控えめな見どころとなっています。 本作は大胆な透かしに頼るのではなく、鉄地の肉置きの変化によって奥行きを表現しています。地鉄の緩やかな起伏、柔らかな彫り口、そして余白と文様の絶妙な均衡。この写実的な静けさと、無駄を削ぎ落とした線、最小限に抑えられた象嵌の妙は、甚吾派の作風、ひいては「控えめな優雅さ」を尊ぶ肥後金具の真髄をよく示しています。 寸法:縦 80.7 mm × 横 72.4 mm 厚さ:切羽台 4.5 mm / 耳 3.7 mm 重量:124.7 g





志水派
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志水派は、林・平田・西垣と並び肥後金工の本流を代表する四家の一つである。初代志水仁兵衛は平田彦三の甥と伝えられ、その指導を受けた。四家の初代はいずれも細川三斎忠興に抱えられ、直接の指導を受けている。寛永九年(一六三二)、加藤家改易ののち三斎の子忠利が熊本五十四万石に封ぜられると、三斎は隠居の身となり肥後国八代城を隠棲の場と定めた。初代甚五はこのとき彦三と共に三斎に従い八代に移住し、以後志水家は細川家の庇護のもと八代の地で代々栄えた。二代目以降、家督を継ぐ者は甚五(甚五)の名を襲名したが、初代・二代には在銘作が皆無であり、無銘ながら鑑定により世代が判別される。 志水派の作風は、肥後金工諸派の中にあって「ひときわ強烈な個性」を発揮するものとして一貫して評される。その技法上の最大の特色は、槌目焼手仕立ての鉄地に大胆な真鍮据紋象嵌を施す手法にある。表には猛禽・鶏・梟・雨龍・蛸・蟹などの画題を大きく力強く配し、一方裏は意図的に空間を広くとり、文様は小さく、彩色や肉置きも穏やかにして表裏のバランスをとる。一見非対称に感ぜられるこの表裏の構図こそが志水派の真骨頂であり、説示は繰り返し「総体的にきわめて均整のとれた趣の深い作品」と評している。表の躍動感と裏の静寂感が渾然一体となり、寂(さび)ないし侘寂の趣を深くする剛毅な作風がそこに成立する。真鍮据紋象嵌は「恐らく平安城象嵌にならったもの」とされるが、「平安城象嵌と異なるところは大胆な図柄にあって、これが今日なお斬新な感じを与える」と説示に明記されている。また鋤出高彫に金銀布目象嵌を施した作や、素銅地の作もあり、素銅でありながら重厚な趣を醸し出せるのは「甚五の技量の高さを伺うに十分」と評されるように、地金を問わず深い造形力を示す。撫角形・障泥形を得意の鐔姿とし、変り櫃孔もまた同派に見る特色である。 志水派は肥後金工の伝統において最も異色かつ芸術的迫力に満ちた一派としての地位を占める。とりわけ初代甚五は卓越した作家として説示に高く讃えられ、松上の梟図や松上の猛禽図はその名と「ほとんど同義」とされるほどに密接に結びつく。説示は初代の最高作について「大智は愚の如し」の語を引き、「大巧は拙なるが如し――拙に見えて拙でないが故に常識を超越した力を発揮した」と述べ、技巧を超えた境地に達した芸術家として位置づけている。武人の魂を猛禽に託して無双の覇気を示す一方、余白を十分に生かした画面からは「物深い閑かな雅趣」が感じとられ、文武両道の達人であった三斎の指導に応えた入念の作と評される。また「魚金甚五」の銘を持つ稀少な在銘作や、銀布目象嵌・毛彫・色金を駆使した後世代の展開は同派の技法的幅の広さを証するものである。「他の金工にはみられない大らかな雰囲気」を醸し出し、「近代的感覚にもうったえる」と繰り返し評される志水派の絵画的造形は、肥後金工の枠を超えて刀装具史に独自の存在感を刻んでいる。
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