江戸時代中期 侍甲冑 特別貴重資料認定書付 (A-43) 時代: 江戸時代中期(1688-1800年頃) 本品は2025年9月14日に日本甲冑武具研究保存会による審査を受けております。認定書の発行には2〜3ヶ月を要する見込みです。 兜(かぶと) ■鉢:筋兜 兜は頭部を保護するための武具です。当初は実用性を重視して製作されていましたが、時代と共にその意匠の目的は変化し、侍たちは特徴的な兜を着用することで、自らの威厳や個性、あるいは信仰を表現するようになりました。一説には、こうした独創的な意匠の兜は室町時代後期から江戸時代にかけて製作されたと言われています。これらは「変わり兜」と総称され、動物の毛、貝殻、植物、紙など、多種多様な素材が装飾に用いられました。 ここで兜の歴史について少し触れたいと思います。変わり兜が登場する以前、南北朝時代に「筋兜」が誕生しました。当時の戦闘様式が騎馬戦から徒歩による刀や薙刀での戦いへと移行する中で、兜の軽量化が求められるようになりました。また、刀による攻撃を受け流すための構造として考案されたのが筋兜です。その形状は、武器が当たった際に滑らせて衝撃を逃がす工夫がなされています。筋兜の製作は室町時代に全盛を迎えましたが、本作もその伝統を汲み、江戸時代に製作された筋兜の一つと推測されます。本作は六十二枚の小鉄板を繋ぎ合わせて形成されており、「六十二間筋兜(ろくじゅうにけんすじかぶと)」と呼ばれます。 ■錣(しころ): 黒漆塗板物萌黄糸素懸威 ■吹返(ふきかえし): 吹返は兜の左右両端に位置し、顔側面を刀剣から守る役割を果たします。 ■面頬(めんぽう):烈勢面頬 この形式は「烈勢面頬」と呼ばれ、敵を威圧するために怒りの表情を模しています。面頬には形状や外見によって多くの種類がありますが、その目的は顔面の保護のみならず、自らの素顔を隠すことで心理状態を悟らせないという役割もありました。本作には長い髭が設えられており、これにより若年の兵であっても、経験豊かな壮年武士のような威厳ある風貌を演出することができました。 ■前立(まえだて): この前立のモチーフは「鹿角」です。鹿角の意匠は、勇敢さ、再生、そして神聖さの象徴として、日本の甲冑や工芸品に古くから用いられてきました。鹿は強い闘争心を持つことで知られ、特に雄鹿の角は戦いの象徴と見なされてきました。兜の前立に鹿角を取り入れることで、武士は戦場における自らの勇気を示したのです。また、鹿角は毎年新しく生え変わることから、生命力や再生の象徴とされ、武運長久や繁栄への願いが込められています。さらに、奈良の春日大社に代表されるように、鹿は神の使い(神鹿)として崇められてきました。鹿角をモチーフに用いることで、武士は神仏の加護を求めたのです。これらの理由から、鹿角を戴く兜は縁起物として武士の間で非常に重宝されました。 また、細部を観察すると、花と唐草文様が施されているのが分かります。この花は菊と思われます。菊は秋を象徴する花の一つであり、古来より日本人に深く愛されてきました。中国では古くから延命長寿の薬草としても用いられてきたと伝えられており……



























当世具足 · 五枚胴
具足一連(完備)
62間 · 筋鉢
無銘
素懸威 · 紺
deer antlers, chrysanthemum, arabesque, wild goose
江戸
出来・保存状態が特に優れ、特別に貴重と認められた甲冑武具で、五段階の第三位にあたります。
甲冑はNBTHKの鑑定対象ではありません。日本甲冑武具研究保存会(1961年設立)が甲冑武具の研究・保存を担う中心的団体で、その審査は作品を「資料」として、保存資料・貴重資料・特別貴重資料・甲種特別貴重資料・最高位の重要文化資料という五段階で格付けします。「資料」という呼称は、刀剣の鑑定とは別に、甲冑を文化的・歴史的な資料として保存するという会の趣旨を表しています。
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