江戸後期 The late Edo period 彦根彫は江戸時代に近江彦根を中心として隆盛し、藻柄子宗典の名で知られる一派が、鉄地へ武者、仙人、故事人物などを密度高く彫り表し、金銀や素銅の色金を交えた華麗な作風を完成させました。人物を重ねながら透かしで奥行きを作り、甲冑や衣文の細部へ布目象嵌を施す表現はとりわけ人気が高く、本品にも彦根彫の華やかで物語性に富んだ作風がよく示されています。 丸形の画面いっぱいに四人の武者を配し、左上には武蔵坊弁慶、右方には烏帽子姿で指揮を執る源義経を描いています。後方には盾と松を重ね、左下には流水を添えることで、人物だけでなく戦場を取り巻く景物まで限られた空間へ凝縮し、甲冑の威糸、兜、武具の細部へ残る金色と、顔や手に用いた色金が各武者へ鮮やかな生気を与えています。裏面は表の肉彫透の裏側をそのまま見せる構成で、新たな図柄を加えず、透かしの骨格と彫りの深さを存分に味わえる仕立てです。 金の布目象嵌には長い年月による程よい擦れが見られ、それが華麗な合戦図を落ち着いた古色へまとめ、かえって奥深い風格を生み出しています。四人の武者を重層的に配した密度ある画面、立体感に富む肉彫、複雑な地透、多彩な色金が一体となり、手元で細部を追うたび新しい場面が現れるため、源義経と武蔵坊弁慶の物語や彦根彫の豪華な装飾性を好む方にとって、見応えの尽きない魅力的な一枚です。
取扱店 刀心
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