南蛮鐔は、桃山時代末から江戸時代にかけて中国・ヨーロッパなど海外文化の影響を受けて成立した異国趣味の刀装具を広く指し、鉄地に龍や唐草、異国風の人物・船・文字などを表し、金銀の布目象嵌を施した作例が知られています。とりわけ江戸中期には異国風意匠を備えた南蛮鐔が流行し、龍とアルファベットを思わせる洋風文字を組み合わせた作例も現存しています。これらの文字は必ずしも意味の通る欧文とは限らず、異国文字そのものを装飾意匠として取り込んだ例もあり、本作下部に並ぶ文字状文様もその系譜に位置づけて見るのが妥当でしょう。 本作は厚さ6.1ミリ、重量137グラムという量感のある鉄地を角形に仕立て、龍を大きく彫り表した一枚です。龍の身体には銀の布目象嵌を広範囲に施し、さらに耳にも全面に銀布目象嵌が施されています。耳側面の銀布目象嵌は長年の使用によって擦れ、名残を呈す程になっていますが、制作当初は龍体から耳に至るまで銀色に輝き、現在とは大きく異なる華やかな姿を呈していたものと想像されます。髭には金布目象嵌を施して銀との色彩的な対比をつくり、笄櫃穴は埋められており、実際に拵へ装着されながら伝世したことをうかがわせます。 そして何より本作の魅力は龍の表情でしょう。一般的な鐔に見られる威嚇的で精悍な龍とは趣を異にし、大きな頭部と丸みのある目元、どこかとぼけた顔立ちは、まるで昔話の挿絵に登場する龍のような愛嬌があります。その一方で、龍体を大胆に構成し、銀布目象嵌を主体として髭には金布目象嵌を施し、下部には洋風文字を大きく配する意匠は実に奔放です。精緻さだけを競う作品ではなく、異国文化を当時の金工がどのように理解し、自らの感覚で再構成したのかを楽しませてくれる南蛮鐔であり、銀象嵌の擦れもまた長い伝世を物語る景色となった一枚です。
取扱店 刀心
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無銘
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