埋忠重成は七左衛門といい、橘姓を称した埋忠一門の金工です。山城国西陣に住し、延宝・天和頃を中心に活躍、一時幕府に召されて江戸へ下り、芝片門前町にも住したと伝えられています。埋忠一門の巧手として知られ、鉄地をはじめ各種の地金に彫刻や象嵌を施した鐔を残しました。現存作には「山城國住埋忠重成」「山城國西陣住埋忠橘重成」などと銘するものが確認され、文化遺産データベースにも鉄地に鋤彫、金銀象嵌を施した重成作が収録されています。 鞭は馬を御するための実用具であると同時に、武家の騎馬文化を想起させる画題です。本作では鞭を鐔面へ単に描くのではなく、節立つ鞭の姿によって耳をぐるりと巻き、その立体的な輪郭を鐔そのものの外形へ取り込んでおり、意匠と造形を一体化させた埋忠重成の卓抜した着想が際立ちます。耳の厚みは4.8ミリを確保し、連続する節の一つ一つを肉厚に表しているため、正面では力強い縁取りとして画面を引き締め、斜めから眺めれば鉄地から盛り上がる鞭の量感と陰影が明瞭に現れます。 表面には縄を素銅で象嵌したうえで金色絵を施し、右下から鐔面を大きく横切るように、緩急をつけて伸びる姿を描いています。深い黒色を呈する鉄地の上へ黄金色の線が鮮やかに浮かび、縄の撚りまで細やかに表された線が軽快な動きを生み出す一方、鞭の持ち手には金布目象嵌を加えて技法と輝きに変化を持たせており、簡潔な構図の中に素銅象嵌、金色絵、金布目象嵌という異なる仕事を巧みに取り合わせています。広い余白を大胆に残した構成だからこそ、縄のうねりと耳を巡る鞭が互いに呼応し、見る角度によって金の細線が現れては沈む、奥ゆかしくも印象深い景色を楽しめます。 裏面では左下に縄を輪違い状に表し、表面の伸びやかな構図とは趣を変えて、絡み合う輪の形へ画題を凝縮しています。表裏で縄の見せ方を変えながら、耳を巡る鞭によって全体の統一感を保つ構成には、限られた鐔面を余すところなく生かす作者の優れた意匠感覚がうかがわれ、笄櫃穴は赤銅で丁寧に埋め、茎穴の上下には素銅の責金を施すなど、細部の仕立にも実用された刀装具としての確かな来歴が残されています。 大振りな鉄地、豊かな肉置きを見せる鞭状の耳、黒い地へ冴える金の縄、表裏で趣向を変えた構図が一体となり、華美な高彫へ頼らず素材の色調と線の動きだけで強い印象を残すところが本品の魅力です。保存刀装具鑑定書を備え、埋忠重成の確かな技量と遊び心、鉄味と象嵌の美しさを存分に味わえる、同工の作中でも意匠性に富んだ見応えある鐔です。












新刀
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新刀 · Kyoto
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埋忠派は桃山時代を代表する金工集団であり、刀装具制作において後藤家と並び称される名流である。その鐔制作の技術は他の追随を許さず、古来より「埋忠鐔」の名を以て絶賛されている。特に埋忠彦次郎を中心とする本流は、吉川広家指料の「碇切り」に代表される苔鑢の妙技で知られ、金無垢地に施された鑢目の高尚な品格は筆舌に尽くせないほどである。桃山期における溌剌とした芸術精神を反映し、鐔の世界に新生面を拓いた。 作風の特徴として、金無垢、素銅、真鍮など多様な地金を用い、絶妙な肉取りの平地に締まった肉置きを見せる。斜めに掛けられた鑢や角耳の鑢仕立ては埋忠の真髄であり、切羽台外周に施された微妙な角度の配慮は、拵や刀装具を熟知した技術者ならではの工夫である。意匠は桜花透、胡蝶透、葡萄文、菊唐草文など図案化された文様を陰透や平象嵌で表し、明寿が創始した赤銅・銀・金の平象嵌研出しの技法は極めて効果的である。家紋を散らした刻印打込や七宝象嵌など装飾性に富み、絵画的で雅な雰囲気が満ちている。 江戸時代に入ると京都金工界において後藤、平田、正阿弥と各派が互いに影響し合い、埋忠派もその作風に変化を見せている。埋忠寿斉の銘がある慶長十年正月の縁頭は、金無垢地に家紋散図を施した豪華な仕立てであり、上層武家の需要に応えた作例として知られる。金無垢の鐔は度々の激動期に鋳潰されたため桃山期以前の作品は極めて少なく、現存する作例は資料的にも貴重である。埋忠二字銘の作品も江戸前期に見られ、明寿に近い出来を示すものもある。 詳しく見る →
銘が正しい、または無銘でも年代・流派を指摘でき、美術工芸的価値が認められる、保存に値する真正の刀装具と鑑定されたものです。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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