秋の水辺に降り立つ雁は、季節の移ろいと旅のひとときを感じさせる古くから親しまれた画題で、本品では木瓜形の鉄地を広々とした風景に見立て、左上に山、右手に葦と柴垣、下方に二羽の雁を配し、限られた鐔面の中に遠景から水際までを気持ちよく見渡せる景色を作り上げています。二羽は寄り添う番を思わせながらも、一羽は首を起こして周囲を見渡し、もう一羽は身をかがめて水辺へ顔を寄せ、異なる仕草を組み合わせたことで、静かな情景に親しみやすい生気が宿っています。 山銅とみられる雁の柔らかな赤褐色は黒褐色の鉄肌によく映え、丸みを帯びた胴、曲げた首、羽の細い彫りまで目を近づけるほど表情が豊かで、足に施された金色絵が小さく鮮やかなアクセントとなり、水際に立つ姿をいっそう印象深くしています。二羽を大きく彫り出して主張させるのではなく、広い余白の下に寄せて置いた構図も巧みで、鉄地の渋さがそのまま澄んだ空気や水辺の静けさへとつながり、眺める位置や光の加減によって雁の姿がふっと浮かび上がります。 左上の山は抑えた線で遠くに置かれ、右手では金色絵を交えた葦が細い茎や葉を伸ばして風の気配を伝え、そのさらに奥に描かれた柴垣が人の営みをほのかに感じさせるため、単なる鳥の図にとどまらず、山里の川辺を訪れた一場面として眺められます。右上の葦から下方の二羽へ視線を移し、再び山へ戻すと、余白の広さと景物の細やかさが釣り合い、表面を一巡するたびに静寂の中へ新しい動きを見つける楽しみがあります。 裏面は川の流れを主題にして、水筋を思わせる緩やかな彫りを鉄地に走らせ、その間に小石を思わせる金色絵を点々と置き、表で雁が憩う場所の水の動きを別の角度から描いたような趣を添えています。金の小さな輝きが暗い鉄肌の上に散る様子には、水底の石に光が触れる瞬間や流れに揺れる反射を思わせる余情があり、表を眺めた後に裏へ返すと、鳥の姿を描かずとも同じ川辺の気配が続いていることに気づかされます。 山、葦、柴垣、二羽の雁、そして裏の川を一具の風景として結び、山銅とみられる雁の温かな色味と、足や草、水辺へ控えめに散らした金色絵とを黒い鉄地が引き締める本品は、遠目には端正な秋景、手元では細部の仕草や色金の仕事を繰り返し味わえる一枚で、拵に取り合わせれば落ち着いた季節感を添え、鑑賞に供すれば表裏に続く物語をじっくり楽しませてくれます。








無銘
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