伝来書の基準と方法
伝来書をどのように作成し、その言葉が何を意味し、何を記さないかについて。
調査
作品の来歴は、それを記した文書から読み取ります。大名家をはじめとする家々の刀剣台帳、売立目録、刀剣の雑誌、日本美術刀剣保存協会の指定記録、そして作品に伴う銘や鞘書、指定書・鑑定書などです。
作品にかかわる名、評価額、記述は国立国会図書館の全文検索によって探り、決め手となる箇所は必ず紙面の画像で確かめます。典拠は、読者がみずから開いて確かめられるよう、書名と頁、国立国会図書館の資料であれば識別番号とコマまで示します。
二つの確度
伝来書に記す所見の確度は二つに限り、各所見の欄外に示します。
| 確度 | 意味 |
|---|---|
| 確定 | 本文を全文確認した一次資料、または二系統以上の独立した文献伝承における長文の記載に立つもの(同一文献の刊本は一系統と数える)。 |
| 有力 | 確定に至らないが十分な典拠があるもの。その確度に応じた表現で記す。 |
これらの確度に至らない手がかりは当館の調査記録にとどめて調査を続け、いずれかの確度に達したときに、新しい版として伝来書に加えます。
当館が公にし、あるいは示した読みが後に誤りと分かった場合も、削ることはありません。抹消線を付して伝来書に残し、改めた理由を記します。
典拠には、それが与える証拠の種類に応じて等級を付します。
| 等級 | 証拠 |
|---|---|
| E1 | 一次資料。要となる本文を全文確認したもの |
| E2 | 当該記載に固有の語句により、まとまった本文を確認したもの |
| E3 | 短い断片のみを確認したもの |
| E4 | 紙面上の位置関係、または推論によるもの |
| E5 | 典拠を示さない報告 |
伝来書に記すこと
伝来書は、典拠が確かめるところを記し、そこにとどめます。成果のなかった探索は調査記録に残し、伝来書には記しません。ただ一つの例外は同定の項で、本刀と区別される他の刀を挙げます。
作品を手にした人のうち、公の立場にあった人(大名家とその当主、宮家、鑑定家、役人、刊行物に名の見える刀剣商)は名を記します。戦後の個人については、本人またはご遺族の同意がない限り名を記しません。
昭和五十五年(1980年)以後については、指定、鞘書、刊行物、展覧会など、作品そのものに関する文書のみを記します。その時期の所蔵者、刀剣商、売買に触れることはなく、現在の所蔵者を記したり、うかがわせたりすることもありません。
失われた文書は、それを伝える公刊の報告によってのみ、その報告が支える確度で引きます。
結論の一行
伝来書がある家の所蔵を確定する場合、扉にはその家の紋と結論の一行を掲げます。この一行は確定した所見から定まった規則によって導くもので、その都度書き起こすことはありません。
「伝来」とするのは、その家の所蔵が五十年以上隔たった二つ以上の時点で、二代以上の当主のもとに確定する場合に限ります。それ以外は「旧蔵」とします。確定した所蔵がなければ、結論の一行は掲げません。
昭和十六年から二十七年まで
戦時と占領期には、供出や、昭和二十年以降の占領軍による刀剣の接収によって、多くの刀剣が持ち主の手を離れました。この時期についても、伝来書は他の時期と同じく文書が確かめるところを記し、占領期の許可証や登録簿も一次資料として読みます。
伝来書でないもの
伝来書は、真贋の鑑定、出来の評価、価格の査定ではなく、日本美術刀剣保存協会その他いかなる機関の鑑定書・指定書でもありません。真贋・出来・保存状態・価値の判断は、それを職とする方々に委ねます。
所有権の帰属、輸出の可否、盗難品としての登録の有無についても、伝来書は何ら述べるものではありません。これらについては、それを職とする方々にご確認ください。
版と改訂
伝来書の各版は、それぞれ固有のアドレスに、改めることなく保存します。奥付には、その版の指紋(ダウンロードして確かめられる記録のSHA-256)と前の版の指紋を記し、伝来書の履歴が人知れず書き換えられることのないようにしています。
新しい典拠、所見の確度の変更、誤植の訂正のいずれも新しい版とし、改訂履歴に一行で記します。公開をとりやめる伝来書があっても、その番号は日付と各版の指紋とともに台帳に残します。
審査
伝来書は、発行に先立ち名品博物館の学芸員が審査します。所見を調べた者が一人で審査にあたることはなく、確定とする所見は、調査にあたらなかった学芸員が決め手となる典拠に照らして確かめます。審査を終えるまで、伝来書は草案として示します。
ご依頼による調査も同じ基準によります。料金はあらかじめ定め、所見の内容や売買によって変わることはありません。また、ご依頼によって作品が当館に収蔵されることはありません。