平安城象嵌は、鉄地の鐔に真鍮を主体とする象嵌を施した一群で、京都を中心に発達した刀装金工の系統として知られています。古くは室町後期頃から作例が見られ、桃山から江戸初期にかけて盛行し、鉄地に蔓草、花葉、家紋などを真鍮で象嵌することを大きな特色とします。線状の象嵌のみならず、文様を面として嵌め込む平象嵌を組み合わせた作もあり、黒味を帯びた鉄地と黄金色の真鍮との鮮明な対比が平安城象嵌の見どころとなっています。海外市場でも平安城象嵌は独立した一系統として扱われ、桃山末から江戸初期とされる優品も確認されています。 本作は丸形の鉄地に桔梗と唐草を表裏いっぱいに巡らせた華やかな一枚で、花と葉には真鍮平象嵌、伸びやかな蔓には細い線象嵌を用い、黒味を帯びた鉄地の上に真鍮の柔らかな金色が鮮やかに浮かび上がります。桔梗と葉を単調に反復するのではなく、それぞれの向きを巧みに変えながら唐草の流れへ組み込み、鐔面を一巡するように文様を連続させた構成には心地よいリズムがあり、縦83.2ミリ、重量163グラムという大振りで量感ある鉄地を豊かな装飾が余すところなく彩っています。 とりわけ注目したいのは象嵌の保存状態で、これだけ鐔面全体に細かな文様を巡らせながら目立った欠落を見せず、表裏とも桔梗、葉、唐草の意匠がよく保たれている点は本作の大きな魅力でしょう。裏面の象嵌には後世に補修された可能性を感じさせる箇所が見受けられるものの、全体の鑑賞を損なうものではなく、鉄地の落ち着いた古色と真鍮象嵌の色調がよく調和しています。 大振りの鐔面を惜しみなく使った豊富な象嵌、表裏に展開された完成度の高い意匠、そして象嵌が良好な状態で今日まで伝わっていることまで考え合わせれば、平安城象嵌の装飾美を存分に楽しめる一枚であり、保存刀装具鑑定書を備えた鑑賞資料としても手元に置く愉しみのある作品です。









銘が正しい、または無銘でも年代・流派を指摘でき、美術工芸的価値が認められる、保存に値する真正の刀装具と鑑定されたものです。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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