一成は成木一彦が用いた銘で、昭和35年頃から鐔の研究と制作に取り組み、尾張、赤坂、金山などの古鐔を深く学びながら、自家製鉄と鍛造による鉄味の再現を追求した現代鐔工です。昭和56年に中津川市無形文化財保持者となり、昭和61年には黄綬褒章を受章、平成21年には日本美術刀剣保存協会の無鑑査に認定され、「一成」「一成造」などの銘を残しました。古鐔の形を単に写すのではなく、古作が備える構成の強さ、鉄地の量感、透かしによって生まれる余白まで自らの鍛鉄へ取り込み、現代の鐔として格調高く再構成したところに一成作品の魅力があります。 本品は丸形の鉄地へ複数の家紋と文様を大胆に透かした家紋尽透鐔で、切羽台の右には優美な曲線を描く下がり藤紋、左上には丸に澤瀉紋を配し、上方には鉄地を直角に折り曲げた鍵形の枠を設けて、その内側へ松皮菱紋を組み込み、左下には四阿形の輪郭の中へ分銅熨斗紋を収めています。形の異なる意匠を単に並べるのではなく、切羽台を中心として鉄地を太く残す部分と大きく透かす部分を巧みに切り替え、個々の紋を明確に見せながら全体を一つの力強い構図へまとめた、意匠性の高い作品です。 右側の下がり藤紋は、垂れ下がる藤房と葉の伸びやかな曲線によって鐔面へ柔らかな動きをもたらし、繁栄と連綿たる繋がりを想起させる藤の意匠が、硬質な鉄地へ雅やかな趣を添えています。左上の丸に澤瀉紋に表された澤瀉は、矢尻を思わせる葉の姿から「勝軍草」とも称され、武家に好まれた植物文様として知られるもので、丸輪の中へ簡潔に収めた姿が下がり藤の曲線と鮮やかな対照を見せます。 上方では、直線を直角に折り曲げた鍵形の枠が切羽台を跨ぐように左右へ広がり、その中央へ大小の菱形を重ねた松皮菱紋を据えることで、丸い鐔の中へ端正な直線と鋭い稜線による引き締まったアクセントを生み出しています。左下には屋根と柱を思わせる四阿形を鉄地で残し、その内側へ分銅熨斗紋を組み込み、正確な重さを量る分銅の均整と慶賀を表す熨斗の祝意を重ねることで、植物紋、幾何学文、吉祥文が互いに響き合う、読み解くほど味わいを増す構成となっています。 鉄地には一成鐔らしい緻密な鍛え肌と落ち着いた光沢が現れ、透かし際は鋭く整えながら耳へ向かって僅かな丸みを与えることで、輪郭に硬さだけではない柔らかな量感を持たせています。下がり藤の細く湾曲する部分、丸に澤瀉の端正な輪郭、鍵形の枠内へ設けた松皮菱、四阿形の中へ収めた分銅熨斗というように、大小の透かしを重ねても鉄地の繋がりに無理がなく、表裏を返しても意匠が崩れないところには、古鐔を深く研究した作者ならではの設計力と、鍛鉄を自在に扱う確かな技量がうかがわれます。 82ミリを超える堂々とした姿と108グラムの確かな量感を備え、黒漆鞘へ合わせれば多様な紋の輪郭が陰影となって鮮明に浮かび、明るい背景へ展示すれば複雑な透かしと鉄地の美しい繋がりを余すところなく鑑賞できます。下がり藤、丸に澤瀉、鍵形に松皮菱、四阿形に分銅熨斗という趣の異なる意匠を一枚へ収めながら、散漫さを感じさせず力強い家紋尽の造形へまとめ上げた本品は、無鑑査鐔工・一成の鍛鉄と古鐔研究の成果を存分に味わえる、収集にも展示にも相応しい見応えある作品です。















Kazunari
昭和
在銘
保存 (NBTHK)
銘が正しい、または無銘でも年代・流派を指摘でき、美術工芸的価値が認められる、保存に値する真正の刀装具と鑑定されたものです。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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