【はじめに】 今日、海外の影響を受けた日本刀の装身具は、一般に「南蛮」様式として分類されています。これは、わずかに異国情緒を感じさせるものから、完全に外来の様式を備えたものまでを包括する便宜上の呼称です。この言葉自体は古くから存在しますが、現在のような分類として定着したのは20世紀初頭のことでした。しかし、このジャンルは日本国内で制作されたものから海外製のものまで多岐にわたるため、単に「南蛮」と一括りにするのはいささか簡略化しすぎているとも言えます。 また、この様式において、鍔(つば)以外の金具が発見されることは極めて稀です。本稿では、私が知る限り世界で唯一の作例と思われる、南蛮様式の「笄(こうがい)」と「小刀(こがたな)」の一揃いをご紹介いたします。 笄は髪を整えたり耳を掻いたりするための道具であり、小刀(柄の部分を指して「小柄(こづか)」とも呼ばれます)は日常用の小刀です。これらは共に鞘の入子に収められ、意匠を揃えた一対のものは「二所物(ふたころもの)」と称されます。 【解説】 本作は、極めて希少な「広東(かんとん)様式」の笄・小柄の一対です。公益財団法人日本美術刀剣保存協会(NBTHK)より「特別保存刀装具」の指定を受けており、これは南蛮様式の作品としては異例の、極めて高い評価を得ていることを示しています。 この様式は、いわゆる「広東鍔」に着想を得たものです。これらは北京の宮廷工房で制作された中国刀の鍔が、広東の港を経由して日本へもたらされたもので、当時の日本で大きな人気を博しました。やがて、貿易商や日本の職人たちも、これらの意匠を模した作品を自ら制作するようになりました。 ・本作と、日本におけるこの種の制作のインスピレーションの源となった中国製の鍔との比較。 ・この中国製の鍔も日本に伝来したもので、小柄の柄を通すための「小柄穴」が後から穿たれているのが確認できます。 ・本来、このような鍔が装着されていた中国の清朝皇帝の佩刀(サーベル)。 ・マックス・ドレガー・コレクション。1925年に競売にかけられたもの。同種の例はエルミタージュ美術館等にも所蔵されています。
Certificate reading — 無銘(南蛮)










南蛮派
江戸
Nagasaki
特別保存 (NBTHK)
鐔工
保存刀剣のうち、出来が一層優れ、保存状態も良好と認められたものです。再刃や、室町・江戸期の多くの無銘作は対象外となり、保存刀剣より高い基準が課されます。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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