鉄地 応龍波濤図 変形鍔 本作は、武士の表道具である大刀(打刀または太刀)に相応しい、堂々たる大振りの鉄地鍔です。 表には荒波の上を飛翔する「応龍(翼を持つ龍)」を配し、鍔の四方には縁を跨いで意匠化された雲が施されています。この独特の輪郭は「変わり形」と呼ばれ、力強い造形美を放っています。一方、裏面は一転して静謐な波と雲のみが描かれ、表裏の対比が見事です。 製作手法は、鉄を叩き出し、鏨(たがね)によって精緻な彫刻を施した後、布目象嵌(地鉄に細かい格子状の刻みを入れ、金銀箔を叩き込む技法)によって豪華な装飾が加えられています。 両小柄・馬針穴(両櫃穴)は、現在は金にて埋められています。 切羽台は、日本の伝統的な素立て(平らな仕上げ)ではなく、中国風の装飾的な高肉彫りに銀象嵌が施されており、異国情緒を感じさせる意匠となっています。 【応龍(翼ある龍)について】 翼を持つ龍は東洋美術において比較的珍しい画題ですが、清朝の軍旗などに見ることができます。特に「得勝霊纛(とくしょうれいとう)」と呼ばれる、戦勝時に掲げられる旗にその姿が描かれています。 清朝の軍制は当時の日本の学者によって研究され、享保四年(1719年)刊行の『唐土訓蒙図彙』などの図譜を通じて紹介されました。本作の意匠も、こうした文献から着想を得た可能性が考えられます。 【鑑定および伝来】 本作にはかつて日本美術刀剣保存協会(NBTHK)の「保存刀剣」鑑定書が付属しておりましたが、輸送中に紛失しております。当時の鑑定では「肥前」と極められていました。こうした特異な作風の鍔の極めについては諸説あるものの、概ね妥当な見立てと言えるでしょう。 より詳細に考察すれば、長崎の唐人屋敷周辺で活動していた中国人彫金師の手による作品である可能性も十分に考えられます。 注釈: 1. 允禄等奉勅撰『皇朝礼器図式』(乾隆31年/1766年刊)参照。
Certificate reading — 無銘(肥前)
江戸




銘が正しい、または無銘でも年代・流派を指摘でき、美術工芸的価値が認められる、保存に値する真正の刀装具と鑑定されたものです。
日本美術刀剣保存協会(NBTHK)は、1948年に設立され、文化庁の監督を受ける公益財団法人で、東京・刀剣博物館に本部を置きます。専門の審査員が出品作を直接審査し、美術的・歴史的価値に応じた鑑定書を発行します。NBTHKの鑑定書は、日本刀および刀装具の真正性を示す最も広く認知された基準です。
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