鏡師作と伝称される鐔は、室町時代から桃山初期にかけての無銘鐔の一群を成す。審査説明において「古来、こうした作域の鐔を鏡師作と称している」と繰り返し記されるように、その帰属は特定の工房の記録に基づくものではなく、鋳造技法や造形上の特質から鏡作りの伝統との親縁性が認められてきた鑑賞上の伝承である。「果してその当否は今後の研究に待つべきものがある」とも付言されており、実際に鏡師の手になったか否かは未だ確定していないが、室町期の鐔の好資料として高く評価されている。
鏡師伝称鐔の作域には明確な共通性が認められる。形状はいずれも丸形で、山金地または真鍮地を用いる。技法の中核は鋳出しによる高彫——鋤出高彫・打出——であり、鋳立の上に浅く鏨を加えて仕上げる手法も見られる。耳は土手耳を基本とし、耳上にも花形文様の鋳出しを施す例がある。構造は一枚作と二枚合せの双方が確認される。文様は紋章的・幾何学的意匠を主とし、十二葉の菊花文、略式の桐文、格子文の方形内に牡丹花を配した構成、亀甲渦巻文散らしなど、大胆かつ大形の図柄で構成される。桐花が五三でも五七でもない略式を採り「かえって一段の趣きを添えている」と評されるなど、定型を離れた意匠に独自の雅趣が認められている。
審査においてこれらの作品は「出来がよい」「作も優れている」と一貫して高い評価を受けている。菊花文鐔は「時代も古く、一種の雅味がある」とされ、同趣の作中でも「大形であり、大胆な文様を配して」傑出すると評される。格子花文桐文鐔は「大形の堂々たる鐔」として鏡師の流れを汲む作と位置づけられている。鏡師の名の下に括られるこれらの鋳造高彫鐔は、刀匠鐔・甲冑師鐔の主流とは異なる技術系譜に属する作品群として、室町期鐔研究における重要な一角を占めている。